関学アメフト部・小野Dの会見で感動した「ロウソクの火」の話

前回の続きで、関西学院大学アメリカンフットボール部の26日の会見における小野宏ディレクターの話をする。

 

小野Dの話で、本当にこの人は指導者だなと思ったのが「ロウソクの火」の話である。私に限らず、多くの人が心打たれたのではないか。

 

会見でこんな質問があった。「日大の回答書には『DL選手に闘志がなかった』という指摘があるが、アメフトをやる以上、最低限の勇気や闘志は必要だと思う。そのようなモチベーションを引き出すには、どのような指導方法が必要と考えるか」。鳥内秀晃監督の話のあと、小野Dは何とも優しく諭すように語った。

 

「僕もコーチを20数年やってましたので、ちょっとだけ付け加えると。闘志は勝つことへの意欲だと思いますし、それは外から言われて大きくなるものではないと思っています。自分たちの心の中から内発的に出てくるものが一番大事ですし、それが選手の成長を育てるものです。その一番根源にあるのは、『フットボールが面白い、楽しい』と思える気持ちです」

「我々がコーチとして一番大事なのは、その選手の中に芽生える楽しいという気持ち、これは『ロウソクの火』みたいなもので、吹きすぎると消えてしまいますし、大事に、少しずつ大きくしないといけません。そっと火を大きくするような言葉も大事でしょう。内発的に出てくるものをどう育てるかが、コーチにとって一番難しい仕事なんだという風に思っています」

 

これには驚いた。聞いていて涙が出そうになった。

 

中学・高校・大学・あるいは社会人でもいいが、本気でスポーツに取り組んだ経験のある人には多かれ少なかれ響く言葉だったと思う。

 

スポーツ選手は勝つために、時に地獄のようなトレーニングを経る。なんでこんなキツイことしなきゃならねえんだよ、と疑問を覚えることもある。それを乗り越えてもらうために、指導者が四苦八苦している胸中の一端が、この言葉に表れている気がしている。

関学アメフト部・小野ディレクターが1時間30分の会見で返答に窮した唯一の場面

大学アメリカンフットボールの悪質タックル問題で、関西学院大学アメフト部が5月26日に会見を開いたが、小野宏ディレクターの回答で気になった場面があった。

 

休日、たまたま会見をネット中継で見ており、どうしてもこの話を書きたかったのでブログを始めることにした。

 

一応おさらいしておく。発端は6日の試合で、日本大学のDL選手が関学のQB選手に背後から悪質タックルを仕掛けて全治3週間の怪我を負わせたこと。関学はなぜあのプレーが起きたかの真相究明を求めて日大に質問状を送ったが、17日の会見では誠意がないとして不信感をあらわにした。日大は、事の経緯を確認するには時間がかかるとして24日までに再回答する旨を関学に伝え、この度その再回答が届いたので、26日に関学が会見するに至った。

 

会見ではメディア向けに文書を配布していたようだ。ある記者が質問した。「『今後の方針』で、『相手選手への支援の可能性』を盛り込んだ意図と思いは何か。支援の可能性として、どんなことが想定し得るか」

 

言うまでもなく、タックルを仕掛けた張本人、日大DL選手のことだ。被害者側の関学が、加害者側の彼を支援するというのであるが、無理もない。

 

日大DLは22日にたった一人で会見を開き、彼の身に起きたありのままを赤裸々に語りつくした。いつ、どこで、誰が、何を言ったか、その時彼はどのような心境だったか、彼が追い詰められていく過程が生々しく明かされた。

 

内田正人前監督と井上奨励コーチの指示のもとタックルをしてしまったこと、指示があったにせよタックルをしたのは自分であり、重く責任を感じ謝罪したいことなど。

 

対して23日、内田・井上両氏は会見を開き、日大DLの言い分を否定した。指導者が自己保身に走ったと受け取られて仕方のない会見だ。真相がまだ客観的に定まっていないとはいえ、世間の多くは日大DLの言い分の方に頷いている。

 

26日の関学会見に話を戻す。日大の回答では、真相究明にあたって当該DLに話を聞いていないというのだから驚きだ。これで信じろと言う方が無理がある。

 

小野Dは「支援の可能性」についての先の質問にこう答えている。

 

「今おそらく日大DLの選手は、ヒアリングを受けておらず、孤立した状態にあると思います。例えば……そうですね、まあ、いろいろ考えていることはありますが、今ここで具体的に話すのは適切かどうかということがありますので、やはり控えさせていただきます。DLの主張と監督・コーチの話には齟齬があるので、何事か困っていることがあれば、支援の可能性を模索したいと思っています」

 

私が見た限り、約1時間30分の会見の中で、小野Dが回答を言いよどんだのはこの「例えば……」の時だけだ。

 

小野Dはかなり頭が切れる。アメフトと選手をこよなく愛し、真相解明に向けて本気で取り組んでいるのが分かる。もしかしたら、この時「日大DLを関学アメフト部員として受け入れる」と言おうとしたのかもしれない。

 

だが同時に、真相が明らかになっていない中でその選択肢を発表するのは烏滸がましいと判断したのかもしれない。あるいは、「アメフトをやる資格がない」とまで表明した日大DLに、今の時点でそういった言葉をかけるのは配慮に欠けると判断したのかもしれない。

 

いずれにせよ、あの言いよどんだ場面には、小野Dの葛藤が垣間見えた気がする。